山猫のかるら ・ (~強さのお話し~)山猫のかるら ・ (~強さのお話し~)ボクは母さんと初めて夜の森に行くことになった。 「・・・」 夜の森は昼の穏やかさとは違って、とても静かで暗くて不気味だった。 〔かるら、緊張しているの?〕 「だって、真っ暗で音が無いんだもん・・・」 〔恐いのね?〕 「・・・」 〔それは見えないせいね。見えないものほど恐いものはないわ。だから、知ることが大切なの〕 「知ること?」 〔そうよ、知れば恐いものなんてないわよ。この夜の森だってなかなか素敵なものよ〕 「すてき?」 〔そうよ、かるらならすぐにそう感じられるわ。さぁ、行きましょう〕 「うん」 そうして、母さんは森の中をゆっくり歩いて案内してくれた。 森は外から見るより真っ暗ではなかった。月と星の光で薄暗い程度で、木の葉と岩に付くコケがキララと光っている。 そして、音も始めは母さんとボクの足音だけしか聞こえなかったけど、よく耳をすませば静かだけど沢山の音が聞こえてきた。 まるでいろんなものがひそひそと話しをしているようだった。 〔どう?恐くなんてないでしょ?〕 「うん、母さんが言った素敵って意味がわかったよ・・・」 〔やっぱり、血は争えないわね〕 「父さんのこと?」 〔うん、父さんも夜の森が好きだったの。私にその素敵さを教えてくれたのも父さんよ・・・〕 「・・・ボクはそんなに似ているの?」 〔うん・・・〕 ボクは父さんを知らない。父さんはボクが生まれる前にオオカミからこの山を守るために戦って命を落としたらしい・・・ でも、知らないけど父さんはボクの誇り、憧れだった。 「母さん、父さんは強かった?」 〔またその質問?何回聞いても誰にきいても一緒よ、父さんは強かったわ、かるらは父さんの強さに憧れているのね〕 「うん、どうしたら強くなれるの?」 〔そうね・・・経験かな?・・・でも、一つはっきりしていることは強さは力だけじゃないってこと。本当の強さは全てがそろってないとダメなのよ〕 「すべて?」 〔そう、かるらはそれを1つ1つ経験して学ぶ必要があるの、あせらずにね。心配しなくても母さんがいるから大丈夫よ、きっと立派に強く育ててあげる。父さんにも約束したしね・・・〕 「うん」 こうしてボクは毎晩、母さんと夜の森に出かけ、いろんなことを学んだ。 そして、ある夜のことボクは母さんに頼みごとをした。 「母さん、今日はボクだけで行きたい所があるんだ」 〔ボックルおじいさんの所ね?〕 「うん!」 〔もうそろそろ言い出すんじゃないかと思っていたわ。行ってらっしゃい〕 「ホント?やったー」 〔気をつけてね。ボックルおじいさんによろしくね〕 「うん、行ってきます!」 そうしてボクはボックルおじいさんの所へ向かった。 「きっとビックリするぞ」 ボクは夜の森の中を走った。すると、その途中とても不思議な物を見つけた。 何かがぼんやりと光っている・・・ 「なんだろう・・・」 それはとても小さなキノコだった。光に照らされて光っているんじゃなく、自ら光を放っていた。 「不思議・・・一体なんのために光ってるんだろう?・・・あっ!」 ふと、顔を上げると向こうにも、そのまた向こうにも同じように光っていた。 「まるで道しるべのようだ・・・」 ボクはボックルおじいさんのことを忘れ、光る不思議なキノコを追いかけた。 「あれ?ここで終わり?」 そこは円形に何もなく広場のようになっていた。 「ここは何だろう?木がみんな途中で折れている・・・」 自然にできたとは思えないほど不思議な所だった。 「なんだ、不思議だけど何もないや・・・」 いくら見渡しても何もなさそうだったのでボクは元の道に戻ろうとした。その時・・・ バサッ! 「なに?」 一瞬、鳥が羽ばたくような音が聞こえた。 [カゼマル・・・] 「えっ!」 誰かが父さんの名前をつぶやいた。 「誰?なぜ父さんの名前を?」 [・・・もしやカゼマルの子か?] 「はい、あなたは?・・・・」 ボクは声のする方に振り向いた。すると、そこに見えたのは木の上に1つの光・・・ [そうか、待っていたぞ、この時をどれだけ待っていたことか・・・さぁ、こっちに来て顔をよく見せてくれ] 1つの光は目だった・・・でも、どうして1つ?前を向く目は大きく鋭い・・・近づくにつれその姿ははっきりしてきたが、今までに見たことのない動物、いや鳥だった。 「かるらです・・・」 [かるらか・・・似ているな・・・本当によく似ている・・・オレはライデン、フクロウのライデンだ] それは片目の大きな鳥だった。 「おじさんは誰?父さんを知っているの?」 [知っているもなにもカゼマルとは親友だった] 「しんゆう?」 [そうだ、一緒にこの森を守る、分かり合った友だった] 「・・・おじさんが父さんと一緒にこの森を?」 [あぁ、話を聞きたいか?] 「はい、お願いします」 そうして、おじさんは静かに語りだした。 [そう、あれはこの辺りに山犬だのオオカミだのと外敵が多かった頃だった・・・その頃のオレとカゼマルは同じこの山に居ながら別々に自分の縄張りだけを守っていた。そんな時、カゼマルはオレに頭を下げてこう頼んできた。「一緒にこの山を守ろう」と・・・オレは初めは断った。何のために?そう思ったからだ。だが、カゼマルは何度もオレを訪ねてきては熱く語った・・・そして、時にはぶつかり合った・・・オレは初めて自分より強い奴がいると思った。恐れもなく、何より本当にみんなを、森を守るという強い意志があった。オレはそんなカゼマルにほれ、一緒に戦うことにした。オレたちは凄かった、山犬だろがオオカミだろうが協力して山を守りきった] 「そうだったんだ・・・誰もおじさんのことを話してくれなかったから・・」 [そりゃ仕方ない、オレはカゼマルが亡くなってから最近までこの山を離れていたからな] 「どうして?」 [辛かったのさ・・・カゼマルが居ないこの山に居るのが・・・だけど、カゼマルと約束したのを思い出した。それが気になって戻ってきたんだ] 「何を約束したの?」 [カゼマルが最後に言ったんだ「オレの子を頼む、お前が強い子にしてやってくれ」とな] 「じゃあ、おじさんはボクに会いに?」 [そうだ・・・本当に嬉しいよ、これからはまたここで暮らそうと思っている] 「本当ですか?」 [あぁ、これからは父のかわりだと思って慕ってくれ] 「はい、お願いします!」 [ところで、どこへ行こうとしてたんだ?] 「あっ、ボックルのおじいさんのこと忘れていた・・・」 [そうかボックルのじいさんか・・・オレもまだあいさつしてなかったな] 「知ってるの?」 [ここに居て知らない者はいないだろう] 「そうですね」 [一緒に行くか] 「はい!」 ボクが走る上をライデンおじさんが飛ぶ・・・ [どうした、それで全力か?] 「いえ、まだまだです」 ボクは力いっぱいスピードを上げた。 [なかなか速いじゃないか、しかし、カゼマルにはまだまだ及ばない・・・] 「わっ!」 突然、ライデンおじさんが走るボクを持ち上げた。 「す、すごい・・・重くないですか?」 [あぁ、平気だ] そう答えるとライデンおじさんはとんでもない速さで飛んだ。 「・・・」 [恐くないか?] 「全然。とってもいい気分です」 [さすがカゼマルの子だな・・・] 木枝をかわし、羽ばたく音もなく飛ぶライデンおじさんはまるで風のようだった。 「父さんは速かったですか?」 [あぁ、くだりならオレと同じぐらいだった] 「そんなに?」 [地上ではダントツだった] 「そんなにすごかったんだ・・・」 [あぁ] 「おじさんもすごいですね」 [それもカゼマルに出会えたからだ] 「父さんはオオカミとの戦いで受けたキズが原因で死んだって母さんから聞いたけど、おじさんの目もその時になくしたの?」 [いや、この目はオレが産まれてすぐの頃、あの場所に雷が落ちてな、その時になくしたんだ] 「だからあそこだけあんな風になってたのか・・・片目だと大変ですね」 [そりゃ視界が半分だからな、しかし、ハンデを持つ者がそれをハンデと思ったらやっていけない。しかし、それはハンデがない場合でも同じことだ。誰もが必ず弱さを持っている。その弱さを短所だと思ってはダメだ、長所だと個性だと思ってしまえばいい] 「はい!」 ライデンおじさんの言ったこと全てを理解できたわけじゃないけど、その時ボクはライデンおじさんのようになりたいと思った。カッコイイと思った。 そうして、話をしているとあっという間にボックルおじいさんの所に着いた。 [ボックルじいさん、お久しぶりです!] 〈ん?・・・まさか・・・ライデンか?・・・かるらも・・・一体どうなっとるんだ?〉 [ははっ、幽霊でも見たような顔だな] 〈ライデン・・・その減らず口は間違いなさそうだ、戻ってきてくれたのか?〉 [はい、約束をはたしに] 〈かるらか?〉 [はい、そうです] 〈そうか・・・よかったな、かるら〉 「はい」 [ところでボックルじいさん、さっそくで悪いが、夢を見させてくれないか?] 「?」 〈なんじゃ、久しぶりに顔を見せたというのに会って早々眠るというのか〉 [頼みます!] 〈・・・まぁ、いいじゃろう〉 [よし、かるらも一緒にどうだ?] 「今から眠るんですか?」 [なんだ、かるらは知らないのか?] 「えっ?」 [ボックルじいさんに寄りかかって見たい夢を強く念じれば、その見たい夢が見れるんだぞ] 「えっ!そうだったんですか?」 〈そうじゃ、かといって眠るだけに来られてもこまるがのぅ、それに、1度願った夢は1度しか見れないんだ〉 [そうそう、だから特別な時だけだぞ] 〈これ、お前は言えないじゃろうが〉 「だから、ここで眠ると不思議な夢を見れたんだ・・・」 [まぁ、そういうことだ。さぁ、カゼマルに会いに行こう] 「父さんに?・・・はい!」 そうして、ボクとライデンおじさんはボックルおじいさんに寄りかかって目をつぶった。父さんを想いながら・・・ そして、夢の中、少し霧がかった森にとうさんは居た。 「父さん?・・・父さんなの?」 (そうだよ、かるら・・・) 父さんは大きくたくましい姿だった。 「・・・」 (おいで、かるら) 「父さん!」 ボクは駆け寄って抱きついた。 (ずいぶん大きくなったな・・・) 「うん・・・」 (ほら、いつまでも泣いてないで笑った顔を父さんに見せておくれ) 「・・・」 ボクは泣くのをこらえて父さんを見上げた。 (うん、いい顔だ。会えて嬉しいぞ、いつかここに来るだろうと、ずっと待ってたんだ、ボックルじいさんに感謝しないとな) 「うん。ボクも嬉しい、まさか父さんに会えるなんて・・・ライデンおじさんが来てくれたんだよ」 (あぁ、父さんが風に頼んだんだ) 「ボクのため?」 (もちろん。ライデンは父さんの親友なんだ、いい奴だろ?) 「うん、とても」 (父さんの変わりに母さんから学べない強さを学ぶんだ) 「うん・・・でも、本当は父さんから学びたかった」 (すまないな・・・でも、またここへ成長した姿を見せにきてくれ) 「だって、これは夢だもん・・・」 (違うさ、夢の中に居るだけで、こうして会っているのは現実なんだ。それに、いつも見守っている) 「うん・・・頑張って父さんやライデンおじさんのように強くなるからね」 (そうだな、それにはもっと経験が必要だ、それと何のために強くなるかが重要なんだぞ) 「何のために?」 (そうだ、生きる全てのものには生きるための強さがそなわっている。それ以上の強さを求めるのは誰かを守る強さじゃないといけない) 「守る強さ?」 (そう、強さはそれだけでいい。かららは誰を守りたい?) 「ボクは母さんを」 (そうだな、父さんの変わりに守ってもらわないとな、でも、他には?ライデンやボックルじいさんはどうだ?) 「だって、ボクよりずっと強いでしょ?」 (ボックルじいさんはともかくライデンは老いる、それに病気になったらどうする?その時はかるらが守らなきゃ、愛しいものが増えていくほど男には強さが必要になる。強くなればなるほど多くを守らなきゃならない) 「・・・そうか、強くなったら父さんやライデンおじさんのようにみんなを守れるんだね」 (そうだ、かるらは父さんよりも強くなれる。みんなを守ってやってくれ) 「うん!」 (これで父さんも安心だな。だけど、今の話はあくまで力の強さのことだぞ、もっと重要なものは心の強さだ。それは力よりもずっと難しい、だから今は弱くていい、母さんやライデンやボックルじいさんを頼りなさい) 「うん、そうするよ」 (よし、それじゃあ父さんはもう行かなくちゃいけない) 「えっ!もう?」 ボクは父さんにしがみついた。 (かるら・・・また会おう・・・) 「父さん!」 父さんは消え、ボクは目を覚ました。 「・・・」 [会えたか?] 「はい・・・」 [また会えるさ] 「はい」 〈強くなると約束したんじゃろ?〉 「はい」 〈こりゃ期待出来そうじゃな〉 [任せてください。さぁ、遅くなったな・・・心配しているな、送っていってやろう] 「はい!」 終わり。 |